リアルパンデミックを想起させるようなシーンにはゾッとさせられました。
屍体が逃げ出したためか薊ヶ丘ハイツでクラスター感染が起きました。箱の中の人間は特殊部隊を派遣してマンションごと閉じ込めて感染拡大を封じようとしています。その際にまだ人間である者が残る建物ごと封鎖してしまうシーンはまるでリアルケースを予想していたかのようです。
箱の中の担当者である波金のもとへ有見という別のエージェントがやってきました。有見は薊ヶ丘4丁目の廃棄を伝えに来たのです。なるほど複数の建物でクラスター感染が起きて、もうほかにも拡大しているとみるのが自然です。そうであればこれ以上拡大させないために4丁目ごと封鎖してしまう作戦が建てられたということになります。もちろん時間をかければクラスターの起きた町から感染者のみを検査で見つけ出すことは可能です。しかし実際はその時間も人員も確保できないのですから無理なのです。
葛城は赴任先の高校が閉鎖されたため薊ヶ丘４丁目から移動しようと準備を始めました。彼にはゾンビ化した妹の小桃がいてスーツケースに隠して脱出するつもりです。しかし4丁目の関所のような場所で同僚の谷村が発症して暴れるというパニックが起きます。当作品が面白いのはまだ政府や軍組織が機能していて、このようなスクリーニングが描かれているところです。特に葛城は妹を隠して突破しようというのですから緊張感は高まります。仮に当作品が荒廃した世界なら関所の係員を殴ってでも強引に脱出すれば良いのです。しかし身分証の本人確認や警察の捜査があるこの世界では逃亡したとしてもすぐにつかまってしまいます。葛城としては正攻法で関所を通過して新たな赴任先で教師をするしか妹を助ける道はないという縛りがかかっています。
私が今回気になったのは波金や有見といった箱の人間が余裕を見せていることです。有見はやる気がなさそうですし、波金は自分の異常な癖を満足させるために仕事をしているとみえました。どちらの者もゾンビを扱う者として、いささか不謹慎あるいは不自然ではないかと思うのです。もしガブリと噛まれれば自分もゾンビ化するなら必死で感染拡大を止めようとしますし、クラスターの周囲で丸腰で立っていないはずです。もちろん拳銃ぐらいは持っていて、それなりの格闘術も訓練されているからこその余裕とも思えます。ふたりの余裕を合理的に解釈するなら彼らは安全だということです。波金も有見も悠然と現場に来ているのですから感染予防のワクチンをすでに摂取している可能性はあります。