兄と妹のふたりの子供のエピソードがひと段落して安心しました。
妹のユカは玄関の外の母親を部屋の中に入れようとしてドアを開けてしまいました。もちろんユカも母親がゾンビ化していてドアを開けてはならないことは知っています。しかし兄が寝ているスキに妹のユカはドアを開けてしまったのです。ユカはゾンビの手にチョイと引っ張られると玄関の外に吸いだされました。私はここでユカは終わったと思いました。母親のゾンビはすぐにユカに噛みついて感染させるのです。もし外にいるのがオッサンゾンビならユカも本能的に危険を察知して逃げ出すことが期待できます。しかし外にいるのは母親ゾンビなのです。ユカが母親から逃げることは無理です。
兄は決死の覚悟でドアを開けました。今ユカを救わないと終わりです。バットを手にした兄は母親ゾンビをヤル気なのです。残酷な場面が展開されると思った瞬間、玄関の外には猿の勝が立っていました。勝はベランダの垂れ幕を見て生存者を確認しに来たのです。たしか垂れ幕には日付が表示されていました。つまり日付表示の時点では生存者がいるという意味です。なるほど情に厚い勝とて生存者がいるかどうか不明のマンションには行きたくないものです。日付表示が見えればごく最近まで生きていたという確証があります。そこで勝は入りやすい部屋から電線を使って侵入したようです。
勝は開口一番、廊下のゾンビが子供たちの母親かと確認しました。そして母親の姿を見て優しいと褒めたのでした。私はこの場面で勝が褒めるのはどういう理由であるか手を止めて考えました。もしかすると母親は自分の歯を抜いたり折ったりしているのではないかと嫌な想像をしました。母親は生前にゾンビ化する直前に子供を噛まないように歯を全て折っていることを見て勝はその意味を看破したと思いました。しかしページをめくると母親が口の周りに布を巻いて他人を噛むことを出来なくしていることが判明しました。私はいくぶんホッとして読み進めようとしましたが再び手が止まりました。母親の口に巻いてある布からはウジがこぼれていたのです。