薫が過去の思い出に希望を持っているのは危ないと思いました。
破られたベッドルームとのドアを封鎖している薫はヒグマの正体を思い出しました。かつて研究所で捕獲した小熊の成長した姿だったのです。研究者たちはそのメスの小熊をギンコと名付けていました。ＴＦ４という認識番号で呼ぶ昭に対して薫はギンコと愛称で呼んでいます。私はここで薫と昭のキャラクターについて考えさせられました。二人は双子の姉弟ですが本来一人の研究者だったと仮定します。一人の研究者がヒグマに対峙して頭の中で議論を戦わせていると考えると面白く読めるのです。
薫はヒグマが人間との良い記憶を思い出してくれるのを期待しています。しかし昭は三毛別事件との類似性を指摘して被害が拡大することを警告しました。特に印象的なのは葬式中にヒグマが棺桶から遺体を持ち去った部分です。人間同士であればいくら憎んでいても葬式中に罰当たりなことは出来ないのです。しかしヒグマにはその感情はなく空気も読まないのです。
瀬戸と美々を窓の無い安全な物置小屋にかくまった時、棚の上の箱のシーンが気になりました。物置小屋ですから箱があることは自然ですがわざわざひとコマ使って描かれています。これは何かのサインです。私はもしかすると拳銃などの武器が隠されているのではと想像しました。ヒグマの出る地域ならば護身用の拳銃ぐらい隠されていても良いと思います。しかしそれを昭が知らないのは変なのです。昭は長期間この小屋で研究を続けている様子ですから箱の中身を知らないのは不自然です。