やはり夜間に移動するのは悪手だったと思い知らされました。
薫の双子の弟、昭は雪上車を取りに行くために犬のカイを連れて出発しました。彼はベンチプレスで鍛えている肉体派研究者のようです。ただ気になるのは昭が今まで雪崩観測所の雪上車のことを忘れていたことです。たしかに雪上車だけでは救助を呼ぶことにはならないのです。そしてヒグマに対してどれだけ雪上車で対抗できるかは不明です。そのため昭の頭は雪上車を忘れていたと考えられます。しかし一週間待てない現状ではいずれ脱出しなければならず、歩けない者を乗せる車が必要です。
マイナス30度を下回るなかでの移動はかなりの寒さだと思われます。数時間で雪崩観に着けなければ昭は寒さでもやられてしまいます。そんな屋外で犬のカイだけは全裸で楽しげです。動物のたくましさを見たような気がしました。
たしか密猟者の西たちもヒグマを追って足跡が消えているのを見ています。昭も止め足というヒグマの戦法だと気づきました。なるほどヒグマはバックステップで足跡を消しサイドにジャンプするようです。そうして追ってきた人間に対して背後から襲うのです。昭はスキをつかれてヒグマの爪でやられました。そしてライトの電池を失ったのです。
ヒグマは昭がまだ戦えると見るや腕を噛んでブンブン振り回しました。これはエスと妻の眞伊子のケースと同じです。ヒグマはまだ獲物が元気だと知ると、とりあえず腕など噛みやすい部分をバイトして振り回すのです。その衝撃で人間の手足や腰などが大きなダメージを受けます。私はワニのデスロールに似ていると感じました。昭は斧を持って戦いますが暗闇では無力でした。人間は視力に依存していることがよく理解出来ました。